ギター奏者から見たオーボエとゾンビ

先日篠原拓也さん(オーボエ)とのコンサートが終わったばかりです。


オーボエと言って「ああ、オーボエね」とわかる高校時代の友達は少ないだろう。僕の出身高校は音楽とは全く関係のない「一般校」だからである。


僕もオーボエを知ったのは音大に入ってからで、(きちんとオーボエを聴いたのは実は卒業後から) オーボエを伴奏する機会に恵まれている僕がオーボエのことを何も知らないのはあまりに無責任だと思い、歴史や材料、名曲や奏者を少し勉強していた。


オーボエは演奏が難しい楽器だと言われるが、その理由の一つに「リード作り」が挙げられる。詳しいリード作りについてはオーボエ奏者にきいてほしいですが、その苦労を端から見ている僕の雑感をまとめてみました。


リードとは楽器の先端に付ける発音部品。人であれば「声帯」。振動させて、音を出す、オーボエの美しい音の秘密である。問題はその大事な部分がなんと消耗品なのだ。そのため彼らはひたすらリードを作る。


うまいリードを作るには技術とは別に「材料」という要素が加わる。リードは葦(アシ)という植物を削って作られている。つまり、材質は生き物である。「このみかんすっぱい!!」と同じ現象が、当然葦にも起こるわけだが、「この葦よくないね」は奏者にとって致命的だ。彼らは材料のコンディションに合わせてリードを削り、それを使い演奏するが、リードの調子の悪さはオーボエ素人の僕でさえわかるほどはっきりと音に現れる。


「オーボエ奏者はみんな気持ちの上下が激しい」真偽はさておき、僕が知っている奏者は、顔を見た瞬間にその日の調子がわかる。調子が悪いと明らかに元気が無いのだ。


ひどい時は生気まで無い。とりあえず「オーボエゾンビ」と定義する。何度かオーボエゾンビを見たことがあるが、大抵リード作りに没頭した睡眠不足が原因のようだ。虚ろな目と、低いテンション、去り際に「今日はごめんなさい」と謝るのが特徴である。「オーボエ(リード)に生気を吸い取られた」彼らをみると、オーボエに魔剣のような何かを感じる。もはやオーボエが彼らにリードを作らせているにちがいない。「あんまり追い詰めないでください」と言うが、オーボエに操られているから彼らは限界までリードを作る。


コンサート当日「リードが不調だからやーめた!」と言えない。彼らはその日のためにリードを「必死」に整える。どれだけ練習して、準備をしても、リードの調子が悪ければ力を出し切れない。なんて不完全な楽器だろう。気持ちの上下が激しいのは当然のように思う。




ここまで少しネガティヴな表現をしたが、僕の周りのオーボエ奏者はなんだかんだ「楽しんでいる」。篠原さんは「手がかかるから好き」と言っていたし、「凝り性だから楽しい」という人がいる。「言うこと聞かないから可愛いんだよー!」と猫を飼う友人が言っていたが、通じるものがあるのかもしれない。(その猫のおかげで僕のバックは毛まみれになったが。)

なにより、手間をかける価値がある楽器だ。粘り気があって、濃厚で、深い。言葉では表現しきれない魅力がオーボエにはある。とても不完全で美しい楽器。僕はオーボエが大好きだ。


「のだめカンタービレ」に登場するオーボエ奏者黒木くんは、コンクール前にのだめに恋をし、いぶし銀だった演奏が桃色に変わるシーンが描かれる。音楽はその人の気持ちを強く反映するが、たしかにオーボエの色彩は豊かで変化に富んでいて、奏者の気持ちを素直に表す楽器だ。

(その後、彼は失恋しその結果リードの調整を失敗し、落選と散々な姿を描かれる。あの不安定さもオーボエ奏者らしい)


僕はあの音に暖かさと木の香りを感じる。時間のたった木の臭いだ。単純に素材が木製、ローズウッドであったりグラナディラであったりという理由ではない。ウイスキーの樽のような香りに近い。ちなみに僕はスコッチとバーボンの違いがわからないくらいのウイスキー好きである。(つまり無知)



余談だがギタリストとしてオーボエ奏者にとても共感するところがある。


クラシックギターはピックではなく指と爪を伸ばして演奏をするが、この爪はヤスリで整えている。爪のコンディションのためにオイルを塗る奏者もいる。ちなみに僕の爪はつやつやで血色の良いピンク色だ。女の子だったらさぞかし男にモテた指だろう。そういえば昔「手が綺麗な人は、心も綺麗」って言葉を聞いた記憶があるが、あれは嘘だ。


僕らはオーボエのリード同様、この爪の形や調子によって音色が変わるのである。削りすぎると「あれ!?」という音になり、伸びすぎると割れるリスクが上がる。付け爪を使うギタリストもいるが、指先の感覚や自爪の健康を考えると、控えたい。


爪が割れた時、ギターゾンビ誕生の瞬間である。ウォーキング・デッド。絶望である。アロンアルファ(瞬間接着剤)で補強したり、使わない爪を切って継ぎ足したり、いろいろと苦労がある。



話は逸れたが、最後にオーボエ初心者の僕が、オーボエ初心者におすすめする楽曲を紹介したい。演奏者や楽曲によってもまるで雰囲気が違うが、これがオーボエ曲の王道たちです。リンクから聴いてみてほしい。オーボエ最高!





第2楽章は特に有名で映画にも用いられた。ポカポカと暖かい気持ちになって、自然と涙がこぼれてしまうような曲。この曲はオーボエ、ギター、チェロの編成で演奏をして、とても心地よかったのを覚えている。


最も有名なオーボエ協奏曲。のだめカンタービレで黒木くんが演奏した曲。明るくてモーツァルトらしい軽快な1楽章がとても有名。のだめのキャラクターの中で黒木くんが一番好きだ。


ロマン派の名曲。奥深いのに感情的。シューマンが奥様のクララにクリスマスプレゼントとして捧げたらしい。「彼女にオリジナルソングをプレゼントする」こんな素敵な曲をプレゼントされたら、さらに好きになっちゃう気がする。


みんな大好き映画音楽。オーボエ奏者は嫌という程リクエストをされるのだろうが、この音楽が使われている映画「ミッション」を見たことがある人はどれだけいるのだろうか。少し暗い映画なので、ぜひ調子の良い時に見て欲しい歴史に残る名作です。


ちなみに僕はブラームス交響曲第一番のオーボエソロが来た時、「来たぁ!!!」てなります。



▶︎五十嵐紅-クラシックギター
東京音楽大学クラシックギター科卒業。第27回スペイン音楽ギターコンクール第2位、第29回ジュニアギターコンクール高校生の部1位、クラシカルギターコンクール、GLCギターコンクールなど様々なコンクールで入賞。東京音楽大学定期演奏会ソロ部門に出演。2013年日本ギター連盟主催「新進ギタリストの競演」など多くのコンサートに出演。クラシックギターを伊東福雄、江間常夫、荘村清志各氏に師事。スペイン歌曲伴奏法を服部洋一氏に師事。原宿での定期演奏会「水曜日のクラシック」主宰。50gt(five-o-gt)代表。HP:www.koh-guitar.com




▶︎演奏会情報
水曜日のクラシックin原宿
フルートとギター
9/13(水) 19:00-20:00(18:30open)

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